電位差比較法による標準抵抗器の校正

以下の記事で標準抵抗器の製作方法について解説しました。製作した標準抵抗器の校正方法について簡単に説明します。

参照用標準抵抗器

参照用の標準抵抗器としてアルファエレクトロニクス製のASR-101を使用しました。アルファエレクトロニクス製のASR-101は、特性の安定している抵抗器で温度係数は0.2ppm/℃、経年変化は3ppm/年という仕様です。主に企業などの標準試験室内で参照用標準抵抗器として用いられます。参照用標準抵抗器は作業用の標準抵抗器(常用標準抵抗器やワーキングスタンダード)を校正して値を付けるための基準として用いられます。

トレーサビリティ体系

以下に自宅内抵抗器のトレサビリティを示します。抵抗器はASR-101を起点として電位差比較法により値を付けます。この時、10:1または1:10の比をもつ標準器と被校正物を比較することにより、抵抗値の拡張します。

電位差比較法による標準抵抗器の校正

製作した標準抵抗器は、電位差比較法により校正を行います。標準抵抗器 と校正対象 を直列に接続し、安定した電圧源から電流を流します。

この時、標準抵抗器\(R_{S} \)、校正対象\(R_{X} \)間に生じる電圧降下\(V_{S} \)、\(V_{X} \)を電圧計で測定します。測定した2か所の電圧降下\(V_{S} \)、\(V_{X} \)から以下に示す式により、校正対象\(R_{X} \)の抵抗値を求めます。このような校正方法を電位差比較法と言い、標準抵抗器\(R_{S} \)の校正値と抵抗器両端に発生する電圧\(V_{S} \) 、\(V_{X} \)の比を用いて校正対象\(R_{X} \)に値を付けます。

$$R_{X}= R_{S}\frac{(V_{X}+V_{Xoffset})-(-V_{X}+V_{Xoffset})}{(V_{S}+V_{Soffset})-(-V_{S}+V_{Soffset})}[\Omega]$$

$$R_{X}= R_{S}\frac{V_{X}+V_{X}}{V_{S}+V_{S}}[\Omega]$$

この方法では、直流電圧源や電圧計は値を仲介する役割となるため絶対精度が不要になるという特徴があります。また、直流電圧源や電圧計は電圧比を測定している間、安定(10分程度)していればよく、長期的な安定度も必要ありません。

オフセット電圧の影響を取り除くために電圧源の極性を入れ替え、流す電流の方向を切り替えて2回測定を行います。式中の \(V_{Soffset}\)、\(V_{Xoffset}\)は、測定ケーブルと測定対象間の熱起電力、および測定器内部のオフセット電圧を表しています。

まず、(a)で示すように正方向に電流を流し、電圧降下\(V_{S} \)、\(V_{X} \)を測定します。次に(b)で示すように電流を負方向に流すことで電圧降下\(-V_{S} \)、\(-V_{X} \)を測定します。取得した \(V_{S} \)、\(V_{X} \)及び\(-V_{S} \)、\(-V_{X} \)から測定対象 の抵抗値を求めます。

値の拡張

電位差比較法は、標準抵抗器\(R_{S} \)と校正対象\(R_{X} \)の抵抗比を変えることで抵抗値の校正範囲を拡張していくことができます。例えば、標準抵抗器\(R_{S} \)と校正対象\(R_{X} \)の抵抗比を100[Ω]:1[kΩ](1:10)とすれば、抵抗値の範囲を大きい方へ拡張することができます。反対に標準抵抗器 と校正対象 の抵抗比を100[Ω]:10[Ω] (10:1)とすれば抵抗値の範囲を小さい方へ拡張できます。

設定した抵抗比や測定条件によって測定結果に対する不確かさの大きさが変わります。各不確かさの要因が測定結果に与える影響を考察し、その影響量が最小になるように抵抗比や測定条件を設定する必要があります。

製作した同人誌の紹介

計測標準と計測結果の信頼性評価について解説した限界計測本を作成しました。詳しい校正方法や不確かさの算出方法に興味がある方は参考にしていただければと思います。34461Aと標準抵抗器(ASR-101)を使った抵抗標準の運用手法を例に、不確かさ評価の実例を紹介しています。

電気計測における不確かさ評価の基礎と実例 - Yoshikiyo Lab - BOOTH
計測標準と計測結果の信頼性評価について解説した限界計測本です。34461Aと標準抵抗器(ASR-101)を使った抵抗標準の運用手法を例に、不確かさ評価の実例を紹介します。

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