ペルチェ式簡易恒温槽の製作

電子部品や製作した電子回路の温度特性を調べたいということが良くあります。このような時、恒温槽が欲しくなります。小型の恒温槽が某オークションサイト等で出品されていることがありますが、小型といっても、そのサイズは大きく導入の敷居はとても高いです。また、消費電力も大きいため一般的な家庭で稼働させるのは困難です。試験したい対象となる電子部品や電子回路の大きさは100mm程度です。そこで、これら小規模な試験対象物に適したサイズの恒温槽をペルチェ素子を利用して製作してみました。

温度測定環境の構築

まず、恒温槽を自作するにあたって温度を高確度で測定できる環境が必要です。横河電機のディジタルマルチ温度計7563と日置電機のシース形温度プローブ9478を組み合わせて温度測定できる環境を構築しました。適当な白金抵抗測温体とDMMを組み合わせて測定すれば事足りるのですが、昔購入して持て余していた7563が倉庫に眠っていたので、この組み合わせにしています。古い機種ではありますが、3線式の白金抵抗測温体に対応していることと、温度換算の機能が地味に便利です。

日本製で作りもしっかりしています。この値段で購入できるシース形温度プローブとしてはコスパの良い製品だと思います。Amazonから購入できます。

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ディジタルマルチ温度計7563とシース形温度プローブ9478の仕様を以下に示します。

ペルチェ式簡易恒温槽の設計と製作

目標とするスペック

100mm×100mmの基板に実装された電子回路が入る大きさの恒温槽とします。また、温度範囲は0[℃]~60[℃]まで可変できるスペックを目標として設計と製作を行いました。

構造

いつも通りアクリル板を組み合わせて恒温槽本体を構築します。アクリルの外装の中にスタイルフォームの断熱材を入れることで恒温槽内部と外を断熱します。1か所側面のパネルに穴をあけて、ペルチェ素子を利用した温調ユニットをマウントします。槽内には、小型のDCファンを設置して内部の空気を攪拌できるようにしてあります。恒温槽内部はペルチェ素子のスペックより、縦110mm×横165mm×高さ105mmとしました(外観サイズは縦200mm×横235mm×高さ175mm)。100mm角の基板や電子部品の評価には十分な槽内サイズだと思います。

ペルチェ素子を利用した温調ユニットの製作

使用する室温を約23[℃]とすると0[℃]を達成する場合、庫内の温度を23[℃]下げる必要があります。庫内サイズと断熱材の厚みから庫内に流入する熱を求め、その熱を十分に吸熱できるだけの能力を持ったペルチェ素子を選定しました。秋月電子で購入できる「TETC1-12706-T100-SS-TF01-ALO」を選定。吸熱量の最大値は66[W]で理論的には庫内温度を0[℃]付近まで十分に下げることが可能です。ただ、これが意外と難しかった….

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まず、ペルチェ素子の発熱、吸熱面をヒートシンクと熱的に結合した、温調ユニットを製作しました。放熱部にはジャンクのCPUクーラー(Pentium D用)から取り出したヒートシンクを用いました。このヒートシンクと静圧の強い冷却ファンを組み合わせてペルチェ素子の熱を冷却します。吸熱側に発熱側の熱が伝わると吸熱側の効率が落ちてしまいます。放熱側の効率を上げることが重要です。

ペルチェ素子とヒートシンク間の熱結合にはシリコングリスを用いました。熱伝導両面テープを使う手法も試してみましたが、熱抵抗が高く放熱・吸熱両方の効率が著しく低下してしまいました。取り扱いが面倒ですが、シリコングリスの効果は絶大です。特に高価なグリスを使う必要はなく安価なもので十分でした。

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ヒートシンクとの固定は、ペルチェ素子の周囲を囲ったスポンジと両面テープで行います。両面テープ部分にヒートシンクの一部を張り付けて固定しました。

組み立てたが終わった温調ユニットです。ペルチェ素子を大小2つのヒートシンクで挟みこむ構造となっています。小さいほうのヒートシンクを恒温槽内部に導入して熱を内部に伝達します。ペルチェ素子に流れる電流の大きさで温度を制御します。また、ペルチェ素子に流れる電流の方向で吸熱と発熱を切り替えることができます。

恒温槽に温調ユニットを設置。恒温槽内部の小型ヒートシンクには、ファンで風を常に当てることで熱を拡散させます。同時に恒温槽内部の空気を攪拌することで内部の温度を均一にしています。

自作した温調ユニットの動作確認

ペルチェ素子に電源装置をつないで動作確認をしてみます。ペルチェ素子表面の温度が最も低くなる電流を流して恒温槽の内部が一定になったところで温度を測定しました。到達温度は-0.53[℃]となりました。この時の室温は21.2[℃]だったので、室温からマイナス20[℃]程度まで温度を下げることができることがわかりました。部屋の温度はエアコンで生活しやすい温度になっているので、目標とした温度範囲0[℃]~60[℃]まで可変できる恒温槽を実現できそうです。

UTC-200A

製作した恒温槽と温調ユニットで目標としたスペックを実現できるめどが立ったので制御回路の検討を始めました。いろいろ調べているとヤフオクにUTC-200Aというペルチェ素子の温度制御装置が1万円ほどで出品されているのを見つけました。制御装置を自作するとなると部品代もそこそこかかる見込みです。制御装置と温調ユニットがセットでこの値段ならば、制御装置を自作するよりも安いと思い落札してみることにしました。

https://www.ampere.co.jp/wp-content/uploads/2018/05/utc-200a.pdf

温調ユニットの交換

UTC-200Aに付属していた温調ユニットが自作した恒温槽にピッタリ実装できそうだったので、温調ユニットを自作したものから交換しました。自作した温調ユニットよりも大型のペルチェ素子を利用しており、吸熱性能が向上しています。熱を恒温槽内部に導くためのヒートシンクは、両面テープで温調ユニットに固定しました。ヒートシンクの両端に細く切った両面テープを張り付けます。両面テープの無い部分にはシリコングリスを薄く塗布し温調ユニットの金属プレートと熱的に結合させます。

温調ユニットをマウントする部分のアクリル板を作り直して実装していきます。ユニットとの隙間には緩衝材を詰めて断熱と外気の流入を遮断します。こうすることで、恒温槽全体の断熱性能が向上します。

温調ユニットの取り付けが終わったらスタイルフォームを詰めて断熱していきます。出来上がった庫内寸法は、自作の温調ユニットを取り付けた場合と変化はありません。なかなか良い感じで改造できました。

UTC-200Aの動作確認

恒温槽に取り付けた温調ユニットにUTC-200Aをつないで動作確認をしてみます。恒温槽の内部が一定になったところで温度を測定しました。到達温度は-7.46[℃]となりました。この時の室温は19.5[℃]だったので、室温からマイナス25[℃]程度まで温度を下げることができることがわかりました。自作した温調ユニットよりも性能が向上していることが確認できました。この簡易恒温槽の製作にかかった費用は2万ほどでした。

使用例「抵抗器の温度特性評価」

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